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Learning about make KAMABOKO

かまぼこ店への技術指導の一例をご紹介します

2020年の10月の中頃、フェイスブックに投稿されていた東京板橋区にある蒲鉾屋さんに声をかけました。

私「バンコクからメッセージしています。御社の製品を是非食べてみたいです」

主「バンコクですか。海外でのお仕事ご苦労様です。機会がありましたらよろしくお願いします。」

この一言からやりとりが始まりました。

蒲鉾屋さんといっても揚げ蒲鉾が中心のお店です。二代目ご主人がひとりできりもりされています。原料は生魚を豊洲から買い付け、その日の分を卸して水晒を行って昔ながらの石臼を使って攪拌をしています。攪拌は通常サイレントカッターで行うと30分で仕上がるところが、空摺り、塩摺り、加水しながらの摺り、合計で4時間かけているそうです。

豆腐を使用して練り製品を作成する場合の提案

ある日ご主人からこんな質問が、

主「今度すり身に水分を出来る限りとった木綿豆腐を混ぜて、お豆腐揚げを作ろうかなと考えています。一度作ったのですが、個人的に好きな食感ではなかったのです。ただ、一口サイズのボールの別バージョンを年末に追加したいなと」

私「すり身は塩摺りした後に豆腐の水を切ったものを入れて、植物油脂で浮かせた方が食感良いですよ」

主「豆腐を入れると独特な食感になります。揚げ豆腐より弾力のある食感です」

私「そうです」

主「そうですね。完成したすり身に豆腐を混ぜます。フードプロセッサーの攪拌で混ぜました」

私「豆腐と植物油脂を先にフードプロセッサーで混ぜてからすり身と混合したらどうですか?ふわっとした食感にするなら、そちらの方が良いかと。後は割合を調整したらよいです」

主「勉強になります。先に豆腐、油ですね。ゴマ油にして、風味を少しつけるのもありですよね?」

私「それは香付けにいいですね」

主「フワっとした食感にしたら面白いですね。うちのさつま揚げは硬めですから、変わった食感のさつま揚げがあるのも面白いですね」

私「はい、豆腐とは違うふわっとした練り製品。色々な具材を混ぜてもいいですね」

主「いやあ、作るの楽しみになってきました。」

すり身製造におけるアルカリ塩水晒の実際(1)

またある日こんな質問が……

主「クロカワカジキの水晒が不十分だったためか、マグロ特有の酸味が出てしまい、すり身を失敗してしまいました。生魚はやはり慎重にやらないと難しい時がありますね。すり身特有の弾力がなくなってしまいました。初めてです。魚の酵素が残っていたから?か、なんなのか。よくわかりませんが。」

私「そうですね。アルカリ晒とかやりますか?」

主「アルカリ晒はやり方がわからなくて。本では読んだことありましたが」

私「晒の時にアルカリ性にしたら良いと思います」

主「重曹を水に溶いて、浸すととかですか?」

私「そうですね」

主「そのやり方が楽なのであれば、今後のやり方として考えないとなあと思います。今までのように、とにかく十分に水に浸して、洗ってを繰り返しています。このやり方ってあっているんでしょうか?」

私「水は軟水ですか?」

主「軟水です」

私「なら良いですね」

主「水道水です」

私「水質が分かっていれば良いです」

主「一応理にかなっているようで安心しました」

私「アルカリ塩水晒は(0.2%NaHCO3(炭酸水素ナトリウム)+0.15%NaCl)で晒します。」

主「ありがとうございます。リットル当たり20gですか?」

私「そうですね。なんでもトライです」

主「ありがとうございます。長年の当たり前の仕事作業も、文字になり、数値になり、言葉になると、納得いきます。昔からの職人気質の内容は肌身で感じること、経験を積むことと言い換えられ、ピンときません。色々ネットや本で調べてます。その道のプロの福田さんのアドバイスは本当に助かります」

私「いえいえ、参考になればありがたいです。魚種によっては、単に水だけでは血合いや脂が抜けないものがあるんですね」

主「マグロは全く無理でした。特に赤身の刺身に使う部分は。あれはもしかしたら。重曹液に何度か浸して洗ってを繰り返したらよくなるかもですが。」

私「そうですね。しかし基本的に赤身の魚は足が出ないですよね。アルカリ塩水晒をしても無理のようです。」

主「そうですね」

私「はい」

主「マグロの尾の身辺りは筋肉質で、たまに市売り身に使ってました。味がのってすり身がうまくなります。」

私「そうでしょうね。いい案ですね。」

主「マグロの尾の身辺りはすり身を作る時に少し混ぜても、緩和されのか大丈夫でした。」

私「比率によるんでしょうね。足を落とさない比率が。」

主「多分そうなのでしょうね。毎回の配合は控えてますので、失敗しないように気を付けます。奥が深くて、なかなか難しいです。また、ご教授頂けると助かります。ありがとうございます。」

私「いえいえ、私こそ勉強になります。」

すり身製造におけるアルカリ塩水晒の実際(2)

それからある日ご主人からメッセージがはいりました。

主「お疲れ様でございます。重曹液ですが、1リットルあたり20gの重曹を入れてよいですか?0.2%になりますか?30分くらい漬け込んでみようと思います。その後良く水で洗い、使ってみます。」

私「良いと思います。浸漬時間は様子見してください。30分は長過ぎではないかと感じます。食塩も0.15%加えてください。」

主「ありがとうございます。30分くらい漬け込んでしまいました。身質はかなり保水が上がっています。クロカワカジキの身の旨味が出てしまったような気がしてます。食塩は1リットルあたり15gですね。今回は終わったので、次回添加してみます。」

私「はい。旨味が逃げるのは仕方ないですが、足を取るか旨味を取るかですね。時間で変わってくるんじゃないですか? 今回の弾力をみてください。」

主「クロカワカジキを水晒何度かして、重曹液に25~30分漬け込んで、さらに水洗い、水晒しました。サメのような身質、アルカリ性っぽいヌメリという感じです。空摺り30分終わり、塩摺り30分に入ります。そうですね。今回は確実に足を取る方向考えます。朝からご指導ありがとうございました。日曜日のお休みの日に申し訳ございません。感謝致します。」

私「とんでもないです。ご遠慮なく」

師走もおしつまって来たある日、ご主人からメッセージが……

主「お疲れ様でございます。出来ました! 良い感じです! ホッとしました!足はかなりついてます。重曹で晒しただけでかなり変わった気がします。ありがとうございます。」

私「良かったです。」

次の日……

私「こんばんは。晒し身はどんな塩梅でしたか?」

主「お疲れ様でございます。晒し身は良い感じです。魚の旨味も残っています。昨日は急ぎで国産の重曹を用意して使いました。改めて国産重曹を5Kgタイプを3袋買いました。これでより安全な重曹を使い、処理していきます。」

私「よかったですね。私も嬉しいです。よい製品を作ってください。製品の写メを送ってください。」

主「足はしっかりしています。クロカワカジキの生魚をアルカリ性にすることで、摺っている時から魚らしい匂いがしなかったのが印象的でした。」

私「匂いがせずに旨味は残ってたんですか?」

主「アドバイスを頂いたおかげです。生魚で作る時の難しさが一つ解決したのがなによりです。そうなんです。匂いがなくて味はしっかり残ってました。」

私「それは素晴らしい!」

主「製品の写真は明日撮りますね。揚げた後の色目もきれいです。足もちゃんとありますよ。」

私「やりましたね!」

アルカリ塩水晒効果の結果

話は続きます。

主「かまぼこほどの弾力はないですが、クロカワカジキ特有の食感です。すけそうやイトヨリとも違う、少し弱めというか程よくプリントした噛み応えある食感です。」

私「へえ、食べてみたいです。」

主「一応、少しすり身残しています。明日すり身の状態と味、食感確認します。冷凍してみて、解凍して離水具合や弾力も見てみます。基本、リン酸塩や糖類で保水しないと冷凍適性がないと考えますが、どんあ感じになるか試してみようと思います。」

私「冷凍は難しいですよ。普通の保管冷凍庫の―18℃だと”ス”が入りますよ。-25℃以下で1時間以内に冷凍しないといけません。」

主「”ス”とは?」

私「緩慢で冷凍すると氷の結晶が大きくなり、解凍した時に穴が空いた感じでスポンジ様になることです。」

主「身の細胞がゆっくり膨らんで、膨張したまま凍り、解凍した時に水分が出てしまうことですよね?」

私「そうです。特に蒲鉾では気を付けないといけません。揚げ物や竹輪では多少ごまかしができますが。」

主「すり身がスポンジ状にパサパサになるんですね?」

私「そうです。」

主「なるほど。足もなくなりますか?」

私「無くなります。」

主「なるほど。200gくらい試してみます。あと、明日のすり身で行けそうであれば、豆腐揚げも試してみます。」

私「はい。やってみたら分かります。冷凍品は常温より冷蔵庫解凍の方がいいですよ。」

主「了解です。質問です。普通の無添加のすり身は、摺ってから冷蔵保管で何日くらいは使えるんですか?」

私「摺ったすり身を保管するんですか?」

主「出来ますか?」

私「すけそうの様な冷たい海で海域で獲れる魚は坐りやすいので、冷蔵庫でも一昼夜保管は難しいです。」

主「昔、テレビで築地のさつま揚げ屋さんが一日寝かせてから使うところを観たことがありました。」

私「一方、イトヨリの様な温帯に住む魚は坐りにくいので、冷蔵保管1日でも使えます。魚の違いにより、調節できます。」

主「なるほど。冷たい海域の魚、暖かい海域の魚、で違うんですね。クロカワカジキも暖かい海域の魚だからいけるんですね。」

私「はい。魚肉タンパク質の特性です。」

主「坐る……と成型すら出来ないのですか?硬くなるんですか?」

私「身が硬くなり、成型してもボロボロになって成型出来ませんね。」

主「なるほど。」

私「揚げ物でも、気揚げ、坐り揚げ、蒸し揚げ、といった揚げ方がありますよ。」

主「キントキダイも暖水域の魚ですか?万が一生魚が足りなくなったらと。イトヨリはいけますね。揚げ物の揚げ方は知りませんでした。」

私「キントキダイも暖水域の魚ですね。イトヨリすり身は20年前から大量に使われています。」

主「豊洲の仲買さんから手に入るのが、イトヨリ、キントキダイ、すけそう2級らしいです。グチで無リンがあったのですが、ロットの問題で買えなくなりました。グチは高いですが、食感がより向上し、旨味も上がるので一時期使ってました。」

私「無リンは摺り方が難しいですよね。グチは高いですが、製品によって使えば良いと思います。冷凍すり身は便利ですよ。摺る時間も短縮されます。冷凍すり身に生の魚を使用したら良い製品が出来ると思います。」

主「リン酸塩がないすり身にこだわってまして。それが売りと勝手に決めて。私なりのこだわりにしています。摺るの難しいです。生魚も空摺りから最低3時間かかります。」

私「そうみたいですね。時間短縮のためにも冷凍すり身は良いと思いますよ。生魚は生魚、冷凍すり身もそれなりの長所があります。だからこれだけ普及したんだと思いますよ。」

主「そうですよね。いずれ生魚が無くなれば、冷凍すり身のお世話になると思いますし。昔、私の親父は生魚と冷凍すり身を合わせて作ってました。いつもありがとうございます。」

無リンすり身と生魚からのすり身と冷凍すり身

次の日……

主「お疲れ様でございます。1日半経過のすり身ですが、味、色目、足に変化なく、良い感じでした。明日また早朝から魚処理、すり身作ります。」

主「すり身写真です。すけそうやイトヨリ、グチに較べると赤身を帯びていますよね。」

私「良い感じですね。少し赤身がありますね。いい感じに揚がってます。」

主「揚げ上がりの画像です。紅しょうがのさつま揚げです。一番人気ですよ。」

私「味はどうですか?」

主「165℃~170℃くらいです。180℃に上げるとかなり黒く仕上がるのでやめてます。」

私「そのくらいの温度が良いです。」

主「味はGOODですよ。魚の旨味あり、程よいプリンプリン感があります。」

私「食べてみたいです。」

主「揚げ温度はそうですよね。みりんを入れてますので、180℃で揚げると、表面だけ焦げたようになるので。すり身の赤身はアオザメの身の色ですよ。」

私「そうなんですね。」

主「仲買さんからくるアオザメは皮を剥いだ状態ですが、かなり良い鮮度で身質も良いです。」

私「へえ。」

主「こちらはごぼう巻です。親指より少し大きいサイズくらいです。」

私「小さいですね。」

主「ごぼうは少し太めにして、噛んだ時のごぼうの風味がしっかり味わえるようにしています。」

私「いいですね。」

主「サイズは小さいんですかね。私はこの大きさになれてしまって。1個40円とたくさん買える設定にしていますよ。」

主「摺っている時の写真です。石臼です。熱がこもらなくて、夏場は事前に氷でよく冷して、室内をクーラーで温度下げれば問題ないです。」

私「そうなんですね。」

生魚を使用した摺りの実際

年がおしつまったある日……

主「重曹で晒したせいか、さつま揚げにした時の歯ざわりがなんだか滑らかになった気がします。クロカワカジキの身を弱アルカリ性にすることでこんなに変わるとは。水晒しだけではたどりつけなかったなと。」

私「良かったです。お役に立てれば。」

主「私がすり身を使うとしますと、キンメダイです。味があって美味かった記憶があります。これにアオザメ、マグロをちょっと使って。1月中旬にクロカワカジキが入らなければ、キントキダイすり身を使う予定です。」

私「いいですね。」

主「キントキダイすり身はどんな特性がありますか?温度上げて坐らせるなどの必要性がありますか?」

私「イトヨリのように坐りにくいですね。温度を上げた方が足でやすいですね。」

生のクロカワカジキを使用してアルカリ塩水晒を行ったこと

年は改まり……2021年のある日

昨年末に私が作成した「練り製品製造の為にしっておきたいこと」を送っていました。

主「資料読ませていただきました。サイレントカッターの便利さの意味を理解することが出来ました。臼が時間かかる意味も分かりました。」

私「そうですか。よかったです。」

主「重曹を使い弱アルカリ性にすることで、2日は確実にすり身としての機能があり、塩角がとれてマイルドなすり身になりました。酵素を死活させるんですかね。水晒し、重曹液晒しにより、足が今までよりもつきました。私的には、足がつきすぎる、あのクニュクニュした食感はあまり……なのですが。食べる側はああいう食感がいいんでしょうね。あと、加水が増やせそうですが、個人的には魚の旨味を強く残したいので、今までくらいにしようかなと悩み中です。」

私「その加減を研究しないといけませんね。」

主「ありがとうございます。資料は場面に応じてまた読み返していきます。使っている原材料がシンプル過ぎるのであまり変わったことは出来ませんが。」

私「いつでもどうぞ。」

次の日……

主「今日、12月末に冷凍したすり身試してみました。冷蔵庫解凍2日半。足はある感じです。加水を多くしなかったのがよかったのでしょうか。ボソボソ感なく、普通のさつま揚げという感じです。たまたまなのかもしれませんが、強い弾力というよりも適度な程よい感じでした。」

私「冷凍と冷蔵解凍、うまくいきましたね。」

主「解凍がうまくいきましたね。ただまぐれかと。普通は離水してぼろぼろになりますから。でん粉、加水量、練りの時間、タイミング、たまたまな感じです。」

私「だからデータが必要ですよ。再現性がないともったいないです。再度データを取りながらトライして製法を確立してください。」

主「毎回の製造記録ありますから再現はできますよ。明日以降、毎回のロットを一部保存して確立してみます。」

またある日……

主「昨日すり身作りました。クロカワカジキがメインでしたが、魚の量が少なくて、アオザメを多く使いました。サメは足がつかないので、仕上がりの食感を心配しました。加水は減らし、練りの時間をしっかりかけました。もちっとしたすり身になり、一安心でした。加水減らしたので、すり身の粘りがすごくて手首が痛いくらいです。たださつま揚げとしては、サメ特有のふわふわ感もあり、クロカワカジキの風味もあり、良い仕上がりです。」

私「へえ、面白いですね。」

続く……