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Learning about make KAMABOKO

タイにおける「博多にぎり天」の開発事例

「博多にぎり天」開発に至るまでの背景と経緯

K社でのさつま揚げ開発〜原材料や副原料調達のハードル

海外で練り製品を製造する際に、まずハードルとなるのが原材料や副原料の調達です。

25年前、私が初めてK社の駐在としてタイに来て、練り製品の生産開発に携わった時には、原料であるすり身は簡単に手配でき、また食塩、砂糖(グラニュー糖、上白糖の代わり)、タピオカでんぷん、グルタミン酸ソーダ、核酸系調味料、グルコース、キシロース、卵白、大豆白絞油、みりんといった副原料もタイで入手することが可能でした。

しかしながら、タイでは入手できないものが1つだけありました。それは“魚介系エキス”でした。ずいぶん探したのですが、タイの魚醤であるナンプラーしかない状況でした。

さつま揚げの冷凍すり身というのは、製造工程に「水晒」という、旨味成分を含んでいる水溶性の蛋白質やその他の成分を流失させてしまう工程を経るため、当然味がなく、そこに“魚介エキス”を加えて魚の味を付与する必要があったのですが、タイでは入手できなかったために、仕方なく入手できる限りの原材料で配合を組み商品化しました。

私自身は2001年に本帰国によりK社を離れましたが、K社のタイ工場での製造工程においてはその後もさつま揚げなどの揚げもの類をはじめ、蒲鉾、なると、そしてカニカマに至るまで、味の決め手となる“魚介エキス”は添加されない方法で製造が続けられ、それが今でもバンコクの大手スーパーに並んでおります。

L社でのさつま揚げ開発

初めての来タイから15年間が経過して2011年、L社に駐在勤務が決まって再びタイに来ました。その間タイの練り製品業界は目覚ましい発展を遂げていて、カニカマその他年間出荷量も10万トンになっていました。

日本風のさつま揚げはK社が日本人マーケットを席巻しておりましたが、その味は15年前の味と変わらず、日本風のさつま揚げとはいい難い品質でした。

L社では日本風のさつま揚げを開発する機会を与えられ、日本の南九州理研という会社から「エソ」という魚を原料とする「エソエキス」を輸入してさつま揚げを完成させました。

しかしながらそのさつま揚げがタイのマーケットに出回ることはなかったのです。理由は、恐らくタイにはフィッシュボールや現地風のさつま揚げがあり、それらのものと比較すると価格が高いということから普及しなかったのです。よい商品を開発できたものの、それを販売するためのタイにおけるタイ人の消費や味覚などのマーケティングが不足していたことが原因でした。

「博多にぎり天」の開発と販売

2017年に再び来タイしたときは、すでにタイには3,000店以上の日本料理店があり、巨大なマーケットとなっていました。しかしそこで提供されるさつま揚げ、ちくわや蒲鉾はほとんどがK社製造のもので、一味足りないものでした。

「出来るならおいしい日本風のさつま揚げを、たくさんの人にわかってもらって、食べてもらいたい」「日本風のさつま揚げが何とか作ることが出来ないか」と感じておりました。

そこで、私がアドバイザーとして協力している日本のフレーバーメーカーであるK社に依頼して、“魚介エキス”を開発、完成させました。

またタイの製造工場として、冷凍すり身や魚の缶詰を製造しているL社に製造委託を依頼する際に「現在バンコクにあるさつま揚げは魚介エキスが入っておらず、味やコクが足りない。そこでK社の開発した魚介エキスを利用したおいしいさつま揚げを開発して、多くの人に食べてもらいたい」と説得して今回の「博多にぎり天」が完成しました。

また「博多にぎり天」とあわせて「博多丸天」も同時開発ました。

さまざまな食シーンに応用できる「にぎり天」

開発当初、どういうさつま揚げを開発しようかと悩んだ時に、にぎり天なら色んな食シーンに応用できると考えて、野菜、コーン、えび、いか、チーズの5種類を作りました。

この形であれば、おでんには勿論、片手で持って食べることも出来ますし、またオープンサンドでパンに挟んでも楽しめます。

丸天は、おでんや丸天うどんなどの煮込みものや、そのままあぶってショウガ醤油で食べるなど居酒屋用としても活用できます。

アレンジ例:丸天うどん(福岡県のご当地メニュー)

これらの開発商品の販売ルートとして、まずバンコク市内の居酒屋レストランに紹介することからスタートしました。タイに展開する日系の問屋さんにもアプローチして高評価を頂き、正式注文に至るまでになっています。